地球市民

オーストラリアでの性教育について、日本の新聞社からZoomで取材を受けました。後編

取材を受けた経緯

前回は、朝日新聞の24回にわたる連載から、子供への性暴力の被害の深刻さと理不尽さについて、私が深く学んだことをお伝えしました。その心境などを取材班にメイルでお伝えしたら、オーストラリアの幼児・子供保護(Child Protection)や性教育について取材を受けることになりました。

 

取材での質問 1:子供の保護(Child Protection )について

チャイルドプロテクションとは、子供(乳幼児、児童、生徒)の健全な発達と成長を保護する概念や方法です。学校、スポーツクラブ、子供と関わる企業などの組織は、Child Protetion Policy (子供の保護方針)を備えています。

朝日新聞へのメイルの中で、「教員資格を得る課程で、私は、他の学科以上にChild Protetionを厳しく指導されました。」と書きましたら、記者さんから「どのような内容を何時間ぐらい学ぶのですか」と、質問されました。

子供虐待の五つの種類

まず、子供虐待には、5つの種類があることを学びました。これを把握しておくことは、子供の被害に気づくときにとても大事です。

  • 肉体的虐待:殴ったり蹴ったり、髪を引っ張ったり、身体に痛みや怪我を負わすような行為。
  • 精神的心理的虐待:人格を否定したり、「出来の悪い子だ」「生まれてこなければよかったのに」などと言い続ける行為。
  • ネグレクト:育児放棄。食事を与えない、おむつを変えない、清潔に保たない、病気でも適切な処置をしない、など。
  • 性暴力:この投稿で取り扱っていることです。朝日新聞の25回の記事が参考になります。
  • 家庭内暴力に晒すこと:子供を直接攻撃しなくても、父親が母親を殴る場面や母親が父親を罵る現場などに日常的に晒されると、子供の人生に大きな負の影響を与えます。

    家庭内暴力で被害を受ける子供のイメージ

子供虐待の加害者とならない、そして被害に気づくこと

Child Protetionの授業では、さまざまなシナリオのビデオを見て、それは虐待にあたるか、どの虐待に当たるか、気づいたらどうすべきか、を学びました。

  • 女性教師が自分の携帯電話で、15歳くらいの男子生徒に、自分のペットの写真を見せた後、男性の上半身裸の写真を見せている動画。これは虐待にあたるか?
  • 家庭に問題があって登校してこない女子生徒を心配して、フェースブックのメッセンジャーで連絡をして喫茶店で話を聞く。これは適切か?
  • いつも下校時に一人で校庭に残っている小学校3年生。服もいつも汚れている。どうすべきか?

こういうシナリオを元に、同級生と意見を交換して、実際に教える立場になったらどうすべきかを学びました。

何時間くらい学ぶのか

これは一概に言えません。私は0〜5歳が専攻で、まだ喋れない幼い子供の安全を守ることを最重要とする講師の意向で、計8時間くらい座学があり1時間くらいの厳しい筆記試験を受けました。落としたら教員資格を取れないことになるかもしれないと脅されていたので、必死で勉強しました。でも、真面目に取り組んでおいてよかった。

同僚のハイスクールの国語教師は、教職課程でチャイルドプロテクションの科目はなかったそうです。中高校では、保健体育の教師が教えるからでしょう。私の勤務校では、教職課程で学ばなかった人は、外部団体が実施している1日コースを受講することになっています。

子供保護の意識を保持するには

大学などで数時間学んだだけでは、子供虐待を見抜く実力などつきません。学科や生徒対応などは日々教えますから教師として実力が伸びますが、性虐待はまれにしか遭遇しないからです。州政府教育省は、学校などの現場で定期的にチャイルドプロテクションの研修を実施することを推奨しています。推奨というのが、がっかりです。義務にするべきですね。

私の職場では、2年に一度、学年初めに全教職員で チャイルドプロテクションのおさらいをして、少人数のグループに分かれてミニテストに取り組みます。

 

取材での質問 2: 教職などに就く場合の犯罪歴照会のこと

「こちらでは、子供に関わる仕事をするときにWorking With Children Check(略してWWCC)という犯罪照会証明書の提出が求められる」と書きましたら、記者さんからWWCCについて詳しく聞かれました。

私のプロフィールの中でも少し触れましたが、18歳未満の子供(乳幼児、児童、生徒を含む)に関わる仕事をする人は、有給無給に関わらず、犯罪歴などを調べる犯歴照会を受けなければなりません。WWCCは、就職応募時に提示しなければなりません。子供と働くための安全性の証明というような意味です。

WWCCは、子供のいる職場で働くための免許のようなもので、子供と関わる人は、教師、保育士、教室での補助員、言語訓練士などの専門家、カウンセラー、野外活動のボランティア、スポーツクラブのコーチ、救急救命士や図書館司書も含めて必須の証明です。私のクラスに子供を指導するカウンセラーが入るときも、WWCCの番号を提示してもらいます。なお、WWCCは、ニューサウスウェールズ州の証明で、他の州は別の名称で同じような制度があります。

5年ごとに更新が必要で$80(約6400円)かかります。5年の期間中に、子供を教える仕事に相応しくない犯罪を犯したら、警察から雇用者へ連絡がいく仕組みです。

WWCC証明書のサンプル。

WWCCが導入されたのは2013年6月です。それ以降、教育の場で性暴力が減ったのかどうかを調べてみましたが、わかりませんでした。でも、WWCCがある程度の抑止力にはなっていると思います。

 

取材での質問 3:オーストラリアの学校現場における性教育

日本では、学校では性教育ができない、もしくはタブーとなっているそうですね。調べてみたら、1997年に東京で起きた七生養護学校事件で政治が教育へ介入し、学校における性教育が進まない一つの背景となったそうです。

我が子が小学校で受けた性教育

私の3人の子供は私の勤務校を10〜15年前(2006年から2011年にかけて)に卒業しましたが、小学校の時に3回、年齢に合わせた性教育を受けてました。小学校1、2年生向け、2、3年生向け、5、6年生向けで、外部組織による授業でした。これは、教師も教材などを用意しなくて済みますし、専門家のほうがより良い教え方を知っているので、良いやり方だと思います。

取材でびっくりされたのが、その性教育は保護者とともに参加する形式だったこと。保護者が参加しやすいように、一旦下校してから夜の6時か7時ごろ学校で行われました。両親ともに来ている家庭も、片方の親だけのところもありました。私にとっては、オーストラリアの性教育の常識を学ぶことにもなりましたし、自分で教えなくて済むのも楽ちんでした。親子で正しい用語と知識を共有するのは大事でしょう。情けないのですが、私はいまだに、自分の子供にしっかりと性教育をする自信はありませんが。(教師として経験を積んだから、孫にならできるかも)

私が3〜6歳児にクラスで教えていること

前の校長が、園児・児童・生徒の人権や安全を守ることに熱心で、それに関した研修などをしっかりと用意してくれました。その一環で、各教室に発達年齢に合わせた性教育の本を配布したので、それを利用しています。

私の僕のパンツの決まり! 表紙

これは、元警察官で三児の母親でもある人が書いた本です。警官時代に、子供が性虐待の被害となる事例を多く見て心を痛めたので、世間の子供達に、自分を守る力をつけてほしいと思って著作したそうです。

楽しく面白く、そして、繰り返し読んでやってください、とあります。だから、私もただ読むのでなく、最初に質問しながら読んでいきます。

  • みんな、パンツ履いてるよねえ?(子供は笑う)そのパンツの中にあるものを何て呼ぶの?(割と真面目に答えてくれる)
  • いろんな名前があるよね。こちらは、性器を正式名称で呼ぶようにという常識が行き届いているので、ほとんどの子がpenis, vaginaなどと言えますが、祖父母と接しているのどもは、willy, cupcakeなどということもあります。
  • パンツの中にあるものって、変な音も立てるよね。(みんなオナラのことを話して楽しむ。子供はおならやおちんちん、おしこ、うんちの話が好きです。)

そして、一番大事なメッセージ「パンツの中にあるものは、あなたのもの。他の人が見たり触ったりするものでない」ということを、”決まり”として教えます。そこが病気の時は、信頼できる大人か医者だけ、検診するけれど、という例外もつけて。

そして、その決まりを破る人(つまり性暴力の加害者)がいたら、逃げろ!叫べ!蹴ったっていいんだ!と教えます。私は、叫ばせたり全力で逃げさせたりの練習もします。

 

取材後の感想

記者さんの踏み込んだ質問に十分答えられなかった、というのが感想です。それなので、この投稿を書くにあたって、改めて色々と検索したりしました。

大久保真紀編集委員は、「この企画を紙面化していくことは、社内外でいろいろな障壁があります。」と言われました。でも、こういう記事が事態を改善していくんです。実際、5月28日に、「教育職員による児童生徒性暴力​防止法」(議員立法)が成立し、(別名「わいせつ教員対策法案」)色々と評価されています。

取材チームの皆さんに敬意を表するとともに、今後も応援を続けたいと思いました。

 

 

お役立ちビデオ:日本で行われた大変良い性教育の例

偶然見つけた、YouTubeビデオです。
助産師さんが小学校で性教育を担当したときの、教師達との企画の過程や児童の質問・感想が撮られています。

 

 

まとめ:私が教師としてできることを熟考

取材を受けたことで、自分の努力も振り返ってみました。正直なところ、性教育の大事さを十分には理解していませんでした。教える対象年齢が低いこと、他の授業がやはり重要なこと、発達障害のある生徒や父兄の対応など日々いろいろなことに時間を取られること。裕福で安全な地区の私立校なので、性暴力に日常的に直面していないこと。言い訳はたくさんできます。でも、取材を受けたことをきっかけに、自分がやり続けることを二つ決めました。

① 上記の本を使って、月に一回、性教育をする。10分ほどです。でも、頻繁な繰り
返しが成果を上げるのは確実です。

②   常に自分の知識を更新して、周りに被害に遭っている子供がいないか、加害をして
いるものがいないか、気にしておくこと。

蟻の一歩のような努力が、少しでも被害を防ぐことを願って。

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