もくじ
モンテッソーリ教師になりたかった理由
好奇心です。前編で軽く触れましたが、東京で大学を卒業後、システムエンジニアとして都合13年ほど仕事をした後、結婚相手の意向でシドニーに移住。長女の幼稚園・小学校にモンテッソーリ学校を選び、教具にぐいぐい惹かれて自分の好奇心を満たすためにモンテッソーリ教師トレーンングを受けないと気が済まないところまで来てしまいました。
モンテッソーリ学校を子供達のために選んだのは。。。。
長女が3歳になる頃に、幼稚園や小学校のことを考え始めなければいけないと知って、ずいぶんいろいろなところを訪問しました。なにせ、移住者で親戚もいませんから教育制度のこともよくわかりません。評判の良い幼稚園や学校もわかりません。とにかく訪問して、たどたどしい英語で質問して雰囲気を感じていくという手探り状態でした。
そのような中で、通える範囲にある3校のモンテッソーリの学校を見学し、とにかく教材に惹きつけられました。3校のうち、今勤務している学校に決めたのは、そこが木々に囲まれた緑豊かな学校だったからです。私の好みと言えばそれまでですが、公立校であれ私立校であれ、交通量の多い通りに面していたり、コンクリートだらけの学校は、幼い子供の精神に良くないと感じていました。
長女は言葉を覚えるのが早く、いろいろなことを吸収していく子供でした。モンテッソーリ教育のことは全く知らなかったのですが、私はこの子にとても教えきれないなと思っていたので、魅力的なモンテッソーリ教材が美しく配置されている教室を見て、ここなら娘は楽しくいろいろと学んでいくだろうと予感したのです。長女が入学して1年半立った頃、3歳になったやんちゃな息子が同じクラスに入学、小さな時から堂々としていた次女も3歳になると入学しました。
私自身が、アシスタントとして「入学」
モンテッソーリ教材に興味があって仕方なかった私は、どうにかしてその学校で働きたいなあ、と思っていました。縁あって、末っ子が幼稚園部を修了し小学部へ上がるタイミングで資格のいらないアシスタントとして子供たちの在籍した3歳〜6歳児クラスで働き始めました。
毎日、モンテッソーリの教材に囲まれているといっそう好奇心が募ってきます。台所にある普通の水差しや小さな花瓶が教材として小さなお盆に載っています。子供サイズの箒やちりとりがります。台所の流しも子供の背丈に合わせてあります。3歳児も本物の針を使ってボタンつけをしています。担任の先生がそれぞれの教材の使い方を教えると、子供は一人で取り組むようになります。子供たちは落ち着いていて、そういう作業に没頭しています。
一般的に考える幼稚園とずいぶん違うのです。子供達は幸せそうだけれど、騒々しくありません。自然体で調和が保たれているのです。まるで魔法です。私はその魔法の秘密を知りたくて、モンテッソーリ教師コースの受講を熱望し、諦めきれなくなりました。後述しますが、2年がかりで150万円ほどしますし、そう簡単に始められるものではなかったのですが、欲しくて仕方なくなると努力できるものですね。
モンテッソーリ教育への好奇心とは別に、実はもう一つ動機があります。語弊がある言い方をしますが、問題行動のある子供への妙な自信です。子供を集団教育へ通わせ始めるといろいろなタイプのお子さんに接することになります。癇癪の強い子、不思議ちゃん系の子供などなど、保護者も学校関係者も、そういう目立つ子供に関して、時には好ましくない評価をします。そういう発言を聞いて、全く教育経験がないのに根拠もなく「自分ならもうちょっと上手く子供の心を解るのにな」と感じました。それを実証したくて、そのために全権のある担任になるべく、政府の教員資格も取る決心をしました。
オーストラリアのモンテッソーリ教育機関には、二つの系列があります。
オーストラリアでモンテッソーリ教育を取り入れているのは保育園(Daycare centres)・幼稚園(preschools)系と私の勤務しているような学校系に分かれます。こちらでの保育園と幼稚園の違いについて軽く説明しますね。保育園は主に年間48週以上開園し(クリスマスから新年にかけてだけ2週間〜4週間お休み)、朝7時から夕方6時までなど長時間保育をしているところです。幼稚園は小学校などと同じように年4学期あり、学期の間にはスクールホリデー(春休み、夏休み、秋休み、冬休み)があります。開園時間は主に9時〜3時です。学校系は、3歳から12歳まで、つまり、日本の幼稚園と小学校が繋がったようなところです。ハイスクール(中高校)があるところも何校かあります。
自分の子供の全人教育としてモンテッソーリ校を選び、そこに務めることになったので、私は当然ながら学校系が好きです。実際通わせてみて実感する利点は、3歳から12歳まで過ごすので、家族ぐるみで長い付き合いができること。26歳の長女は幼稚園・小学校を共に過ごした時代の友人たちと今でもよく会っています。一生の付き合いになるでしょう。私も、子供たちの友人のお母さんたちと今でも時々近況報告のお茶会をします。私のような移住者にとってこれはありがたい付き合いです。
教師としては、自分のクラス(3〜6歳クラス)から小学部へ進んでいく教え子たちの成長を、同じ学校内で見届けていける喜びがあります。校内で出会うと、みんな嬉しそうに私の名前を呼びます。教え子が小学校を卒業するときのスピーチで私の名前を言ってくれると、こそばゆいような幸せに浸れます。
必要な資格
学校系でクラス主任を務めるには、大半のところでなんらかのモンテッソーリ教師資格と政府の教員資格が求められます。保育園などは、そこまであまり厳しく資格を問わないところが多いようです。ただし、モンテッソーリ保育園に限らず、現在は、オーストラリアで6歳以下の子供を預かる施設や学童保育で働くには、最低でもサーティフィケート(Certificate 3)という、半年ほどの学習で取得できる 資格を持っていなければなりません。
また、18歳未満の子供(幼児、児童、生徒を含む)と関わる人は、犯罪歴などを調べるWorking With Children Check(略してWWCC)を提示しなければなりません。WWCCは、子供のいる職場で働くための免許のようなもので、子供と関わる人にとって、教師、保育士、カウンセラー、言語訓練士、野外活動のボランティア、スポーツクラブのコーチ、救急救命士や図書館司書も含めて必須の証明書です。
私は全権のあるクラス担任になりたかったので、政府の教員資格とモンテッソーリ教員の資格を、なるべく早く取得するための計画に取り掛かりました。
ニューサウスウェールズ州の教員資格を取る
オーストラリアで教員資格を取るには、大学で4年(パートタイムだと8年)履修することになります。教える対象年齢は、0歳〜5歳、0歳〜12歳、小学校、ハイスクール(中高校)などがあります。
州やどのレベルを教えるかで違いがありますが、すぐに大学に入らなくても、ディプロマという、学士の手前の資格をとってその科目を大学の履修として認められる制度があります 私は子供もいてフルタイムで働いていましたから、大学のキャンパスに毎日通うわけにいきません。比較的受かりやすいディプロマを通信で約2年間かけて取得し、大学はその科目を認定されて、これも通信で3年で修了しました。
子供たちと一緒にバサースト(Bathurst)という地方都市まで行って、卒業式に出ました。角帽をかぶってガウンを羽織ったのが、嬉しい思い出です。子供にも、何歳になっても勉強は続けられるという良いお手本を見せられたと思います。週末の朝、台所の食卓で大学の課題に取り組んでいると、いつの間にか子供全員がそれぞれの勉強を持ち出してきて四人で勉強していた、なんてこともありました。息子は家では(多分学校でも)全く勉強をしない子だったのに。私の卒業後、ニューサウスウェールズ州教育省が制度を変更し、0歳〜5歳専修の教員資格で高校まで教える資格となりました。そう、私は高校教師の募集にも応募できます。誰も雇わないとは思いますが。
教員免許を取るためにかかった大学の期間と費用
前述のように、ディプロマからはじめたので足掛け6年かかりました。当時政府は、幼児教育レベル向上を推進しており、保育所・幼稚園においてディプロマ保有者がスタッフの半数以上を占めなければいけないという新しい法律を導入するために、一定条件を満たした希望者のディプロマ受講費用を負担していました。私はそれを利用して自己負担なしで大学の最初の2年にあたる部分を取得できました。ニューサウスウェールズ教育省に感謝。
大学の学費は当時一科目につきA$740(約6万円)くらいで、確か12科目履修だったので、71万円くらいで済んだことになります。そう、教育学部学士が71万円で取得できたのは、えらく安いものです。志があると、宇宙が応援してくれます。
モンテッソーリ教員資格を取る
モンテッソーリ教員資格のためのセンターは世界中に色々とあります。対面式のところ、通信だけでほとんど取れるお手軽コースなど玉石金剛です。金銭にゆとりがあるわけでもないので迷ったのですが、やるからには一番いいところで学びたいと思い、AMI(Association Montessori Internationale 国際モンテッソーリ協会)の教員コースに、えいっと決心。40万円ほどの通信のコースもある中、学費は150万円ほどかかりました。
AMIモンテッソーリ教員資格のコースは、対面式の授業です。足掛け2年、主に年4回のスクールホリデー中に2〜3週間平日9時〜4時に開講されました。
当時のキャンパスは、私の住んでいるところからバス、電車、バスと乗り継いで2時間かかりました。それでものちのち、いろいろな意味でAMIにして良かったと、大きな決心した自分を褒めたい気分になりました。AMIは世界中で一番評価が高く、AMIの資格というだけで引け目を感じなくて済みます。青年海外協力隊経験者は、年次、隊次、任国、職業を問わず、隊員OB/OGというだけで初対面でも話が弾みます。AMIモンテッソーリ教師も同様、どこの国に行っても同志として打ち解けることができます。
AMIモンテッソーリ教員コース
同級生は12人、うち男性は二人。そのうちの一人は、偶然にも今同じ学校の小学部の担任です。北京出身の若い女性ヴァネッサと私以外は、皆オーストラリア人だったなあ。ヴァネッサは当初英語に自信がなく、でも、モンテッソーリ教育を学ぶことに真摯で、ずいぶん励ましました。今は、上海で結婚して二児に恵まれ、そこでモンテッソーリ幼稚園に勤務しています。
コースの終盤は、筆記試験と実技試験。実技試験は、国外から来るAMI試験官の前で、子供の役をする協力者に向けて、モンテッソーリ教材を提示するというものです。つまり、実際に教室で生徒に教えるように教材の使い方を見せるのです。そしてそれに関して、口頭で質問が出されます。この教材の目的は?なんの教材の後に教えていいの?対象年齢の子供は?この教材の発展的な使い方は?この教材の後は、生徒はどの教材に進むべき? 日本語でだって答えられそうにないのに、まして英語で口頭で答えなければなりません。人一倍練習するしかありません。
実技試験の前の2週は、全ての教材が用意してあるコースの教室が夜9時まで解放されました。夜なら道も空いているので、電車バスなら2時間かかるところを車なら1時間弱で帰ってこれます。その2週間は、朝7時前に家を出て夜10時に帰宅して、ひたすら模擬練習に励みました。当時13歳、17歳、18歳だった子供たちには、「今日から2週間インターナショナル キュイジーヌだよ〜」と言って、毎日2千円ほどを渡して、出前やテイクアウトで夕食を済ませてもらいました。ピザ(イタリア)、中華料理、タイ料理、ベトナム料理、ハンバーガー、回転寿司などなど、だから、インターナショナル キュイジーヌなんです。
AMIモンテッソーリ教員免許を取るためにかかった期間と費用
前述しましたが、足掛け2年、28週ほどの座学そして8週間ほどの授業見学及び実習だったと思います。費用は、申し込み代、必須の本など含めて150万円ほどでした。
自慢ですが。
大学の教育学の勉強とモンテッソーリ教員コースを同時進行したことが、自慢、です。
普通は、すでに教員資格のある人がモンテッソーリ教育に出会って改めてモンテッソーリ教員資格を取ったり、モンテッソーリに魅せられた人がそれを学んで、のちに教員資格を取ったりします。私の場合は40歳半ばでモンテッソーリ教員を目指したので、片方ずつやっていたのでは終わる頃には引退の年齢になってしまいます。なので、両方同時に取り組むことにしました。しかも、小学校高学年〜大学受験の三人の子供のシングルマム & アシスタントとはいえフルタイムの勤務 & 英語のハンディ。ほとんど無謀です。でもやりたい!と思ったら「火事場の馬鹿力」的な威力が湧きます。
大学の休み期間は勤務校のスクールホリデーとほぼ重なるので、学期中は大学の課題に集中、スクールホリデーはモンテッソーリ教員コースに通ってその課題に集中することで乗り越えました。
平日勤務した後に子供達を稽古ごとに連れて行き、待っている間に仮眠を取ったり、夕食の片付けの後に疲れているのでぐた〜と寝て、早朝3時ごろ起きて新鮮な頭で大学の課題の学習に取り組みました。私は脳科学の本を読むのが好きなのですが、脳科学者の茂木健一郎さんが、脳は睡眠をとるとリセットされて新鮮に学びはじめると書いていたので、睡眠を計画的にとるようにしていました。
週末も、とにかく大学の課題。頭が疲れていると英語なんてわからないので、お酒もやめました。それでも、英語で大学の課題(Academic Writing)をまとめるのは至難の業。放課後や週末に遊びに来る高校3年の長女の友人たちを捕まえて、エッセイの書き出しを手伝ってもらったこともあります。受験生は頭が冴えています。使えるものはなんでも使え、です。
バス電車乗り継ぎで2時間かかったモンテッソーリ教員コースですが、電車やバスの中でMacBookを取り出して当日の筆記部分をその日のうちに仕上げました。過密スケジュールですから、その日にやることはその日のうちに片付けなければ生活が回らなくなります。モンテッソーリ教員コースは、大学の教員コースより筆記などの難易度は低いのですが、イラストを描いたり教材を作るという課題がたくさんあります。私は、イラストにするべき教材の写真をスクールホリデーで家にいる小学校高学年の次女にメイルで送信して、描いてもらうという裏技を駆使しました。次女は細かい絵がむちゃくちゃ上手なのです。使えるものはなんでも使え、です。
英語ネイティブで独身で家族の世話をしなくてもいい人でも、大学とモンテッソーリ教員コースを同時進行して合格した人はほとんどいないと思います。だから、ちょっと自慢、です。
こんな話、皆さんに取って面白いのかどうか。しかし、こういう濃い数年を経て、今、シドニーでモンテッソーリ教師として充実の人生を過ごすに至りました。
私が子供の教育に関わるようになったのには、実は、もう一つ、神秘系のきっかけがあります。こちらで読んでね。